さて、前回記事ではサプライチェーン成熟度には4段階あるというお話をしました。
今回は、Supply Chain Maturity Modelのステージ1とステージ2について中身を見ていきます。
Stage 1 : Multiple Dysfunction(多重的機能不全)
資料:CSCP Version 4.3, 2019 Editionより引用
Description
社内外問わず統制が取れていない状態。社内では明確なゴールや組織の役割が定義されておらず、社外とのやりとりにおいては発注や請求といった取引に関わるもの以外の繋がりがない。具体的には、需要予測の担当が曖昧だったり、公式には発注権限を持たないはずの開発部門がオリジナル発注書をサプライヤーへ送付していたり、発注書送付時のみサプライヤーと連絡を取る、といった状態が想定される。
その他、APICS CSCPテキストにはこの段階の組織が陥りがちなあるあるが列記されています。(ふわっとしすぎている文章には個人歴な解釈も付け加えています)
ステージ1の企業で発生しがちなこと(DeepL+筆者訳&追記)
- インターナルな活動(営業施策やマーケ施策等)が計画に沿って行われるのではなく、衝動的に行われる。
- マネジメント層は、(組織ごとに特定の明確なミッションを与えるのではなく)最も一般的な使命感しか提供せず、よいケースで激励、最悪の場合は説教という形で伝える。
- フォーキャストはほとんど当てずっぽうで、正当な理由のないマーケティングの楽観論によって吊り上げられることが頻繁にある。
- プロダクトは生産やマーケティングといった他の観点からの助言を得ることなく設計される。
- 倉庫は各マーケットの近くに配置される。そこには、(根拠のない)大きな売上を見込んで過剰な在庫が準備される。その倉庫では、十分なトレーニングを受けていないスタッフが多い。
- トラックや列車が到着したら荷を下ろし、注文が入ったら荷物を積み込むというように、どちらもあまり前もって知らされることなく突発的に行われる。
- 支払いのフローについて、お金の回収がうまくいっていない場合がある。情報のやり取りは発注書、請求書の送付などが中心になっている傾向がある(書面でのコミュニケーションに限定されている)。
- MRP(資材所要量計画)は基本的に、部品表、マスタースケジュール、手持ちの発注データをもとに行われる(需要予測に基づくものではない)。
参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module1 P.17-18
今まで仕事してきた中での実感値として、このような会社は相当数存在する気がします。とりわけ、マーケティングドリブンでサプライチェーンへの投資が後回しになりがちな、化粧品などFMCG(Fast Moving Consumer Goods)を扱う草創期の会社に多いのでは?と推察します。このレベルの組織の改善点を上げ出すとキリがないです。私自身もこのステージのカオスを経験したことがります。
他にも、
・各組織が粒度の違うオリジナルのフォーキャストを作り、それを基に財務インパクトの大きな意思決定をしている。そしてロジスティクス部門や経理はそれを後から知る。
・とんでもないリードタイムの原材料や部品を使用したモンスター製品の存在が発売目前で発覚する。
・引当済の在庫を使用できるものと勘違いして施策検討が進み、いざ出荷だ!となった時には在庫がない。
等々、アンビリーバブルな状況が山ほどあります。
ステージ1段階の企業では、はちゃめちゃパッチワークが主流であるため、基本的にスタッフは目の前の仕事に忙殺されています。こんな現場で”改善”なんて言葉を口にしようものなら「そんなこと考えている暇があったらこの作業手伝ってくれない?」と刺されることでしょう。上長に相談したくとも、そもそも各機能領域にマネージャーというポジションが存在しないことも。八方塞がりです。このような状況において、既存リソースで状況が改善されることは稀。かといって、外部のコンサルタントを雇う金銭的余裕もなければ、対コンサルワークができる人的リソース(ヒアリングに対応する時間や業務を第三者へ伝える能力のある人材)もありません。ここに対する打開策はCSCPにも答えは載っていませんが、個人的仮説としては業務整理ができてカオス受容の高い人物を調達することから始めるしかないと思います。インド好きなアメリカ人みたいな人を連れてきましょう。単に合理的で頭が良いだけの人物だと既存メンバーと馬が合わず確実に失敗します。面接時には頭のキレだけでなく、カオスを楽しめる人材かどうかを確認しましょう。
Stage 2 : Semifunctional Enterprise(部分的機能型企業)
資料:CSCP Version 4.3, 2019 Editionより引用
Description
ステージ1と比べ、情報の流れが改善され社内の各機能領域が定義された状態。チームのミッションは明確になったが、部門間のコミュニケーションに乏しく各部署がそれぞれのKPIを追い求めてバラバラに動きがち。部門内では効率化を図る取り組みが行われいるが、部門をまたいだコラボレーションは見られない。そのため、他部署にとっても価値のある情報が部門を超えて共有されず、会社としてのチャンスを逃すことがある。例えば、マーケットリサーチャーや営業担当が、既存顧客や潜在顧客の中に新たな市場機会を発見しても、その情報を商品開発部門と共有する機会が与えられないようなケースがある。尚、このステージでは顧客やサプライヤーとのパートナーシップは存在しない。
ステージ2の企業に見られる改善努力の例(DeepL + 筆者訳&追記)
- 倉庫での手作業が、基本的なマテハン機器の追加によって補強される。
- 在庫管理において、自社内の在庫を減らす方法を見つける。(あくまで自社内)
- 調達部門が新しい購買戦略を駆使して、可能な限り低価格で材料やサービスを手に入れる。
- 輸送部門が輸送業者とルートを戦略的に選択することで、輸送コストを削減する。
- 一部の部門において、ハードスキルを得るための効果的なトレーニングを実施したり、よりやりがいのある仕事を提供するための戦略を採用する。
- マーケティング部門がより信頼性の高い調査や予測技術を提供するようになる。
- MRP II(製造資源計画)ソフトウェアが導入される。計画プロセスの部門横断的な統合が行われる可能性がある。
参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module1 P.18-19
ステージ1のMultiple Dysfunction(多重的機能不全)と比べ明らかなのは、図から見てとれるように、各機能が明確に切り分けられ情報の流れ(Information flow)が整備された点。部門ごとの役割が明確になってきた反面、サイロ化が進み他部署とのコミュニケーションが減る。そのため、部門を超えて重要な情報が共有されないことが多々ある。
前ステージで採用したIndian-loving Americanが1年ほどかけて情報の流れやサプライチェーンに関わるチームの役割を定義してくれました。おかげさまでチーム内の役割分担も進み、ストレスが軽減され残業時間も減ってきました。その反面、次のような疑問がチーム内に浮かんできます。「隣のチームは一体全体どんな仕事をやっているの?」と。
この段階では、他部署と火花を散らす機会が増えてきます。各機能領域にマネージャーというポジションも確立されました。そして各チームのマネージャーは自チームの利益を死守しようと戦士のごとく争いを始めます。全体としての効率化を図る議論はなされず、作業の押し付け合いが始まります。誰だって、忙しくなりたくないし、自チームのKPIを達成してボーナスを増やしたい。それが隣のチームにとって多少の不利益になるようなことであったとしても。
大半の日本企業がステージ1、もしくはこのステージにいるのではないでしょうか。ステージ1から2への飛躍は、自社だけの努力である程度何とかなると思います。むしろ第三者的介入への鋼のバリアが築かれているため、自社内で完結する方が成功確率が高い気もします。ステージ1で述べたような新たな人材を調達する前提となりますが。
ステージ1、ステージ2と見てきましたが、ここまでは社内に閉ざした話です。ステージ3からはいよいよ社外との連携も始まり、一気にサプライチェーンのレベルが飛躍します。
次回はそんなハイレベルなサプライチェーンの特徴を見ていきます。