【SCMフレームワーク】SCM成熟度Lv.3-4 統合型から拡張型へ

【SCMフレームワーク】SCM成熟度Lv.3-4 統合型から拡張型へ

前回に引き続き、今回もサプライチェーン成熟度(Supply Chain Maturity Model)の中身を見ていきます。3本目にして完結編。本日はステージ3と4の特徴を見ていきます。社内の各組織の業務やミッションが確立されたEnterpriseはどのような進化を遂げていくのでしょうか。早速中身に入ります。

ご興味のある方は是非、初めの記事からお読みください。


Stage 3 : Integrated Enterprise(統合型企業)


資料:CSCP Version 4.3, 2019 Editionより引用

Description

この段階までくると、各企業は個々の分離された機能ではなく全社的なビジネスプロセスに焦点を当て始める。このステージを特徴づけるいくつかの重要なマイルストーンとして、製造および全社的なソフトウェアの導入、部門を超えたコミュニケーションとトレーニングの増加、一元的に配置され簡単にアクセスできるデータベースとファイル、すべての関係部門の代表者が出席する定期的なS&OPミーティング等が挙げられる。また、部分的にサプライチェーン上のその他パートナーとの結びつきが強化されている。

ステージ2と比較して顕著に異なる点(DeepL + 筆者訳&追記)

  • 電子メール、ファイル転送、強力なデータベース、全社的なソフトウェアアプリケーションの利用が可能になったことで、ビジネスプロセスに焦点が当てられるようになる。 機能横断的な協力がより迅速かつ容易になり、部門、時間帯、国境を越えてほとんど瞬時に行われるようになる。
  • サプライヤーから注文品を受け取り、製品を作り、顧客に届けるまでの時間を短縮するさまざまな取り組みが行われている。それは、MRP IIやERPの導入などに代表される。
    – MRPは、製造と財務の部門横断的なコミュニケーションを可能にするシステムにアップグレードされる。
    – ERPにおいては、機能分野ごとにモジュールを追加し、会社全体を統合する最も進んだレベルまで拡張される。さらに、企業の壁を越えて、サプライチェーン・パートナーとの結びつきも進んでいる。
  • 生産技術者やマーケティング、購買などの関係者が製品設計技術者と協力して「マーケティングのためのデザイン」「ロジスティクスのためのデザイン」「環境のためのデザイン」を推進するような、部門を超えたチームワークを活かしたプロダクトデザインを行う企業も出てくる。このアプローチにより、生産現場での工程や設備、人員の変更にコストをかけずに、お客様の要望を的確に捉えた製品が生産できるようになる。(ステージ1や2の企業において、プロダクトローンチ後にロジスティクス的・環境的な観点から仕様が変更されるのはよくあること。)
  • 市場を的確にセグメント化し、各セグメントに適したより効率的な補充政策(在庫配備)により、顧客サービスが改善される。
  • ジャストインタイムの導入、より正確な需要予測、ロジスティクスの改善により、フルフィルメントがより効率的で信頼できるものになり、在庫はより戦略的に扱われるようになる。
  • 費用対効果と顧客サービスの最適なバランスを達成するために、倉庫と輸送方法は並行して決定される。
  • 倉庫管理は、より高度な設備と自動化の恩恵を受けている。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module1 P.20

コンサルやらの外部知見を使い倒せる資金力のある大企業は、このレベルまで到達しているケースもあるでしょうが、ごく少数派です。そして僕がいたような総合系コンサルファームのSCMやBPR案件はこのあたりのプロジェクトが大半だった気がします。個人的には、ステージ2から3への移行にはどうしても外部知見が必要になると思います。各機能領域の業務に精通した俯瞰で見れるプロフェッショナルや、全社的ERP導入PJをマネジメントできるPMO的な存在が求められるでしょう。一から全社的にERPを入れるというよりは、既存ERPのモジュール拡張により他部門のレガシーシステムを駆逐していく系PJ(「〇〇統合プロジェクト」等の大層な名前付けがち)の方がメインかと思います。実際、コンサルタント時代のとあるプロジェクトでは駆逐したレガシーシステム数を1つのKPIとしてマネジメント層に報告していました。そして総合ファームのSCM配属新卒は、このあたりのPJへアサインされる可能性が高いでしょう。このような案件は長期的に金がとれるので、人員も豊富にいて教育体制も整っています。

話が逸れました。ここで、前述のIndian-loving American(業務整理ができてカオス受容の高い人物)が水面化で作成していたシステム概念図や業務フローなどのドキュメントが力を発揮します。イレギュラーパターンも含めた運用一覧のようなものがあれば、ヒアリングにやってきたコンサルタントは興奮します。コンサルにとっては、このようなキーマンの存在がプロジェクト成功の鍵を握ります。一度プロジェクトが成功に終わったとしても油断は禁物。ここからはカルチャーレベルで変革を起こさないと簡単にレベル2へ逆戻りします。ここいらでHR系のコンサルも含めて、組織やカルチャーにテコ入れするのもよいでしょう。


Stage 4 : Extended enterprise(拡張型企業)


資料:CSCP Version 4.3, 2019 Editionより引用

Description

このステージでは、少なくとも一つのビジネスプロセスが個々の企業の境界を越えて繋がりだす。核となる企業が、計画・設計・在庫補充・物流、またはその他のビジネスプロセスについて、サプライヤーや顧客と協力することで、サプライチェーンの端から端まで拡張した事業体を実現するための障壁が取り除かれる。このタイプの企業(事業体)は、自社の内部ネットワークと、提携したサプライチェーンパートナーの内部ネットワークを統合し、効率性、製品・サービスの品質、またはその両方を向上させる。一般的に、外部とのパートナーシップから始まる。

このステージの特徴(DeepL + 筆者訳&追記)

  • チャネル・マスターとサプライチェーン上の1社または数社のパートナー(メーカーと部品サプライヤー、小売業者と完成品サプライヤーの場合が多い)との間で、最初の探索的な協力が行われる。これは、1つの部品や製品にのみ関わる場合もある。現に、P&Gとウォルマートの有名なコラボレーションはおむつから始まっている。最初の小さなコラボレーションが成功すれば、より完全なネットワーク化された関係へと繋がることになる。より多くの製品においてコラボレーションが進むようになったり、統合された電子ネットワークのもとでより完全な情報共有が行われたり、企業の境界を越えてよりオフィシャルなチームビルディングやプランニングが行われるようになる。そして、この関係は他のパートナーシップのモデルとなり、最終的には小売業者から製造業者、そして1つまたは複数の層のサプライヤーへと広がる複数企業のコラボレーションのモデルとなり得る。
  • ステージ4の拡張型企業はテクノロジーによって、より遠くのサプライチェーンまでリーチするようになる。協力パートナーを増やし、市場の変化に迅速に対応し、ステージ3よりも広い範囲で事業を展開することが可能になる。MRP II が他の機能的なアプリケーションと統合され、進化したERPに生まれ変わることで、企業規模の計画系ソフトウェアは、サプライチェーン全体を1つのプラットフォームで結びつけることができるようになる。
  • ネットワーク化された企業は、イントラネット、エクストラネット、ピアツーピアネットワーク、インターネット、またはそれらのプラットフォームの組み合わせで構築されている。パートナー企業同士は、会社の枠を越えてERPシステムをシンクロさせ始め、効率的なコラボレーションに必要なデータを共有できるようにする。例えば、小売業では、顧客が商品を購入するたびに、POSからサプライヤーに情報を送信し、代替品の生産を開始させることができるようになる。Dell Computerでは、顧客の求める仕様が即座に部品サプライヤーに送られ、その注文に応じてコンピュータを組み立てることができるため、自社でコンピュータの在庫を持つことなくインターネットからの注文に対応することができる。
  • CPFR(Collaborative Planning, Forecasting, and Replenishment)に代表されるような、特定のプロセスでの部門横断的なアプローチが実施される。ステージ4の企業では、従来のような縦割りの生産計画に代わって、営業・マーケティング・生産管理(またはオペレーション)、その他関係部署の代表者が集まってDemand Planningや生産スケジュールを調整する場となるS&OP meetingを定期的に開催している。
  • ステージ4では、顧客が製品やサービスを注文し、配送状況を確認し、到着後すぐにカスタマーサービスと連絡を取ることができるようなインタラクティブなWebサイトを提供するなどして、eコマースが進化している。こうしたBtoCのeコマースが発展している裏側では、ネットワークを利用したBtoBのeコマースも活発化している。グローバルな舞台では、企業間競争だけでなく、サプライチェーン全体が世界レベルで顧客、労働者、資本を奪い合う時代になっている。そのようなサプライチェーン間の競争には、企業間の協力が不可欠である。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module1 P.21-22

ステージ4だけ文量が異常。CSCP運営側の熱意が伝わってきますね。図からも分かるように、最も大きな特徴はサプライヤーとカスタマーが枠内に統合されている点。ここまでくると、enterpriseはもはや「企業」ではなく「事業体」と訳す方が適切なように思います。つまるところ、企業内の組織が統合できているだけでなく、サプライヤーやカスタマーを含めて、組織レベル・システムレベルで有機的に繋がっている状態です。

このステージの代表例としては、前述のDellモデルやP&G x Walmartのパートナーシップ等が有名です。(3社とも世界的権威のあるGartner社のThe Gartner Supply Chain Top 25の常連組。P&Gにおいては2021年もマスターズ認定。)Dell社とそのサプライヤーは“Value Chain”と呼ばれる社内ウェブサイトを通じて相互連携しており、このサイトを通してサプライチェーン上の在庫状況や需要・生産に関するデータを閲覧できるようです。得られるメリットはかなりのものでしょうが、このような可視性が実現されるまでの過酷な道のりは想像に難くないですね。。流石にコンサルなどの第三者なしに達成するのは難しそうです。日本の会社でいうと完成車メーカーとTier1との連携などがExtended Enterpriseの代表でしょう。ステージ4の特徴に「会社の枠を越えてERPシステムをシンクロさせ」「企業の境界を越えてよりオフィシャルなチームビルディングやプランニングが行われるようになる」とあります。コンサル時代に2年間ほど自動車部品メーカーのプロジェクトを経験しましたが、企業の枠を超えたシステム連携、改善活動や研究開発といったコラボレーションを幾度となく目の当たりにしました。ちなみに、自動車産業に代表される”ケイレツ”は世界的に見るとかなり特殊らしく”Keiretsu”としてCSCPでも紹介されています。

図を注意深く見てみると、Supplier’s Suppliers(サプライヤーのサプライヤー)やCustomer’s Customers(お客さんのお客さん)までスコープになっています(後日Up予定のSCOR modelも同じスコープ)。ここまで拡張されたサプライチェーンは実在するのでしょうか?個人的に研究してみたいテーマです。この最終形態のイメージは、Horizontalなサプライチェーンでありながらも、コントロールの程度という意味ではかつてのHenry FordのVerticalサプライチェーンのようです。Neo Henry Ford型とも呼ぶべきでしょうか。ここはもはや未開の境地。デザインコンサルファームのような、未だ見ぬ世界観をビジュアライズでき、領域横断的なファシリテーション能力を有する第三者と共にプロジェクトを進めると楽しそうですね。


ここまで3回にわたって、意外と日本では知られてないサプライチェーン成熟度(Supply Chain Maturity Model)について書いてきましたがいかがだったでしょうか。各ステージとも明確な定義があるわけではなく、あるある的特徴がいくつか述べられているだけなので幾分気持ち悪さも残りますが、最低限自身の所属する組織の現在地と今後目指すべき方向性は見えてきたのではないかと思います。

そしてこれは単なる仮説ですが、日本企業の実情はほとんどがステージ1と2です。大手のコンサルファームが相手にするような会社はおそらくステージ3か4(もしくは2の後半)が大半。ステージ3・4レベルの会社でも、サプライチェーンの末端は実はステージ1レベルのカオスな状況だということもしばしばあります。経験上、このレベルの組織は社員を心身ともに疲弊させ、クリエイティビティを奪います。一流企業と共にトップラインを上げていくのも大事ですが、数多あるこの混沌世界を変えゆく人材も貴重な存在です。

私自身の自己学習アウトプットがそのような方の良き勉強材料となれば幸いです。

それでは、よい1日を。

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